12-4. ジデオキシ法によるシークエンシング
https://gyazo.com/c46126ed3d416a19ff66aa9dd02da825
https://amzn.to/2I6DMZu
DNA塩基配列の決定はDNAの塩基配列解析(シークエンシング)によって行われ、古典的にはサンガー(F. Sanger)によって開発されたジデオキシ法を用いた反応がつかわれる
以前はRI標識した反応物を電気泳動で分離し、オートラジオグラフィーで検出していたが、現在では自動解析機(DNAシークエンサー)が用いられる
1) 原理
DNA合成反応で、基質としてdNTPではなく、2', 3'-ジオキシリボヌクレオシド三リン酸(ddNTP)を使うと、それらはDNAに取り込まれるも、3'末端に-OHがないのでその後の鎖伸長が起きない
https://gyazo.com/6ae8c548aa1405b652feb11a3212cf4c
この鎖停止反応をそれぞれの塩基について行い、RI標識産物を変性ゲル電気泳動とオートラジオグラフィーで解析すれば、バンド(反応の止まった生成物)の位置から塩基が判断できる
実際にはdNTPとddNTPの両方を加えるために、特定塩基において種々の場所で伸長停止したものができ、それらがオートラジオグラフィー上でははしご状のバンドとして現れる
https://gyazo.com/5f80db1dfb5eb5d6178d252ab778744e
2) 一本鎖DNA鋳型の準備
DNA合成の鋳型として、基本的には一本鎖DNAを用いる
https://gyazo.com/0a8cb0c224c7cc757ccbdd5b4ab09da8
これを得るためには、M13ファージ由来のM13mp系ベクターや一本鎖ファージが産生できるプラスミド(ファージミド)を使う
3) 反応、電気泳動、検出
A(アデニン)停止反応の場合、ddATPに対して10倍程度のdATPを、そしてリン32-α-dCTPを加え、クレノー断片でDNAをを合成させる
いずれのdNTPも可能であるが、dCTPの取り込み効率が高いために好んで使われる
反応の最後に高濃度dATPを加え、反応を完結させる(チェイスさせて反応途中段階のものを除く)場合もある
他の塩基についても同様に行い、変性後、8M尿素入りの変性ポリアクリルアミドゲルで隣に並べて電気泳動する
分離脳を上げるため、ゲルの厚さを薄く、長さを長く、電圧は1,500~3,000Vと高圧にする
プライマーから数百塩基までの範囲が解読できる
4) 現在までに改良された点(昔のものから順に)
一本鎖DNAを得るための、使いやすいファージミドが多数開発された(e.g. pUC118、pBluescript)
二本鎖DNAをいったん変性させ、二本鎖に戻る間の短い時間にシークエンス反応を終えられる酵素、例えば3'→5'エキソヌクレアーゼがなく高速合成能をもつ酵素が開発され、二本鎖DNAがそのまま鋳型DNAとして使えるようになった
高温で失活しない高性能酵素が開発され、二本鎖DNAでも、65℃以上といった高温でのシークエンス反応が可能になった
上記戦略の延長にある、現在広く使われている耐熱性DNAポリメラーゼを使ったPCRによるサイクルシークエンシングが確立した
合成DNAを熱変性で鋳型から除き、再度プライマーをアニールさせてDNAを合成するという操作を繰り返す
鋳型が何度も反応に利用されるので、少量のDNAで済む
DNAをプラスミドにクローン化しなくともPCRで増やしただけのDNAをサイクルシークエンスするダイレクトシークエンシング(ダイレクトサイクルシークエンシング)が確立された
memo: ジデオキシ法以前の酵素によるシークエンシング
サンガーはジオデキシ法の前身となるプラスマイナス法を開発している
マイナス反応
あるヌクレオチドを除くとその塩基の前で合成反応が止まる
プラス反応
あるヌクレオチドを加えると、酵素の3'→5'エキソヌクレアーゼによる反応がその塩基部分で止まる
反応停止が確実に起こらないためにあまり普及しなかった
ジオデキシ法は、鎖停止が確実に起こるようにとしてつくられた、いわばマイナス法の改良法
memo: マクサム・ギルバート法
マクサムとギルバートにより開発された化学分解に基づくシークエンス法
一端がRI標識されたDNAを延期特異的に切断し、変性ゲルでDNAを分離・検出する
切断が平均1分子に1個起こるようにすることで、すべての点で断片を作製することができる
ただ反応が煩雑で時間がかかり、危険な試薬を使い、解読塩基数も少ないため、それほどは普及しなかった
5) DNAシークエンサー
DNA塩基の自動読取りができる機械をDNAシークエンサーという
古典的シークエンサー(第一世代シークエンサー)
ジオデキシ法に基づく反応物を解析する装置
名称は次世代シークエンサーと対比
1回の運転で0.5~10万塩基が解読できる
原理と操作(蛍光色素付きddNTPの場合)
シークエンシングのための反応はジオデキシ法(主にサイクルシークエンシング)と同じだが、ddNTPに塩基特異的な蛍光色素が付いているものを使用する
ゲル電気泳動で陽極側に流れる反応物DNAにある塩基特異的蛍光色素をレーザーで光らせ、塩基の順に光を検出し、データ化する
https://gyazo.com/b0cabcc331bcd59611e60bc0785e0d16
その後キャピラリー(毛細管)中の高分子ポリマーで電気泳動するキャピラリー電気泳動が開発され、現在の標準法となった
Column ヒトゲノム解読レースのもたらしたもの
ヒトゲノム計画
1990年~
日本は21番染色体を分担
途中、民間会社「セレラ・ジェノミックス社」がこのレースに割り込んでくるなど、激しい競争もあった
最後は共同でプロジェクトを行い、概要版が2000年、完成版が2003年に発表された
プロジェクトがきっかけで
シークエンサーが進化し、意味のない塩基配列という暗号に意味づけをするアノテーション技術が発達した
誰もが配列データを利用できることにより、その後はわざわざシークエンスを新規に行う必要がなくなり(既知配列を参照できるようになり)ゲノム研究の進展速度は飛躍的に高まった
22,500個ほどの遺伝子が同定されたが、そのなかにはヒトの遺伝病の遺伝子も多く含まれていた
全ゲノム情報が利用できることにより、SNPなどの塩基配列多型解析から疾患遺伝子を発見したり、創薬情報が得られたり、DNAマイクロアレイで遺伝子発現を解析するといった、ゲノムワイドなアプローチができるようになった